その日の戦も、厳しいものだった。
 負傷者多数の中、ほぼ全軍が無事に引き揚げられたのは奇跡だったのかもしれない。
 まだ弱小な徳川軍がこの乱世の中で生き抜くのは、それほど過酷なもの。
 それを痛いほど知る徳川家康は、論功行賞なぞ後回しにして、皆の様子を見て回る。
「おめえら、よく戻ってきてくれた…」
 一人ひとりに声をかけ、見せる笑顔。
 その笑顔に、元気づけられる者は多い。
 冷たい雨に凍えた空気が、心なしか暖かくなる。
「殿。直政と康政も戻ってまいりましたぞ。二人ともぴんぴんしておりますわい」
 陣幕の向こうから顔を出した酒井忠次が声をかけてくる。
「おう!すぐに怪我人は手当てしろって伝えてくれ!湯漬けや気付けの酒も忘れるなよ!」
「承知」
 家康の言葉に頷いた忠次は、井伊直政・榊原康政らのもとへと向かった。
 そこで、家康はふと不安げに空を仰ぐ。
 戻ったとは聞いていたが、本多忠勝の姿がまだ見えないのだ。
(あいつ、どこにいるんだ、全く…)
 拗ねたように口を尖らせる家康。
 すると、がしゃり、がしゃりと、鋼の音が耳に届いた。
 ほんの少し癖のある歩き方。
 違えようがない。
「忠勝!」
 家康の笑みに安堵の色が混じる。
 察したとおり、向けた視線の先には、歩み寄ってくる忠勝がいた。
 彼は面頬の口元を外し、片膝をつく。
『部隊の者に逃げ遅れた者がおり、救助に出ておりました。御挨拶が遅れ、申し訳ござらぬ』
「ああ、もう、そんな形式ばったのなんていい!ほら、立て忠勝!」
 唇を動かし律儀に挨拶する忠勝に対し、家康は嬉しそうに彼の甲冑のあちこちをぽんぽんと叩く。
 それに促され、忠勝は立ち上がった。
「その様子なら、皆ちゃんと連れ帰ったんだろ。でかした、忠勝!」
『………』
「忠勝?どした?」
 無言でじっと己を見下ろしてくる忠勝に、家康が小首を傾げる。
『お怪我は…ありませぬな』
 ゆるりと伸ばされた鋼の指先が、家康の頬に触れた。
 愛しむように微かに滑らされるそれを、忠勝に比べれば小さな家康の手が、きゅっと掴む。
『…御無礼を』
 我に返った忠勝が謝罪すると、家康は首を横に振った。
「違う、忠勝。それじゃあ、ちゃんと触ってない。つまんないだろ」
 にま、と笑った家康は、手甲の繋ぎ目に自分の指先を置く。
「どうせ触れてくるなら、生身のお前がいい」
『!』
「お前の、武骨でかさついた指の方がいい」
『!!!』
 こんな時に、何という事を。
 忠勝の視界がくらりと揺れる。
 だが、けろりとした家康は、確信犯。
 戦場の合間にも遊び心を忘れないのは、果たして良いのか悪いのか。
 それでも、そういう主君を愛しく想い、触れていたいと思う気持ちは、忠勝の中にもある。
(だが、まずは生き抜き、殿をお守りするが先決…か)
 忠勝を置いて再び負傷者を見舞って回る家康を眺めながら、彼は苦笑を浮かべた。
 



何だなんだ!?萌え絵に萌え小説だと!!??
何このクオリティ!!最高すぎるじゃないか・・・!!!